小さな蔵の支配人
毎晩の小さな楽しみ

峯 勝義
ミネ カツヨシ
『小手川酒造株式会社』支配人
フンドーキン醤油の営業マンとして、各地の営業所で40年働いてきた。定年後、支配人として『小手川酒造』に赴任。現在6年目になる。臼杵市出身。
野上弥生子の生家として知られる『小手川酒造』は、1855年の創業。峯勝義さんは支配人として、この老舗蔵元を守り続けている。「ウチでは今も、自然に合わせて酒や焼酎を造ります。寒くなる今からが仕込みの本番です」。そう話す峯さんの後ろでは、焼酎用の芋を蒸す湯気が甘い香りとともに漂っていた。
ウチは小さな蔵元ですと、峯さんは言う。造る量では大手にかなわないが、小さいからできることもある。少量手造りの酒は、年ごとに少し味が変わる。「だから『今年の純米吟醸はどんな味かな』と、毎年楽しみにしている人もいます」と目を細める。それは昔から続く、蔵元と人との心地よい距離感。小さな蔵元という言葉には、そんな思いも込められているようだ。
焼酎にも独自の製法があり、黒麹の焼酎は甕で30年以上寝かせたものもある。長期熟成された焼酎には独特のコクと味わいがあり、これを求めるファンも多いという。
夜、家で焼酎「白寿」を味わうのが、峯さんの1日の締めかただ。飽きのこないすっきりした飲み口が、晩酌に最適なのだと話す。「特別な日は黒麹焼酎かな」。そう言って笑う顔は、支配人からひとりの男性に戻っていた。自分たちで造った酒を毎晩楽しむ。それは酒造りに携わる人だけに許された、ちょっと羨ましい特権なのだ。